鹿児島県長島町初の映画となる「夕陽のあと」。初めて映画プロデュースを手掛けた小楠雄士さんに、作品に込めた思いを伺いました。
小楠雄士さんの歩み
東京都出身の小楠さんは、楽天や幻冬舎でのサラリーマン経験を経て、人生の節目に長島町の「地域おこし協力隊」に応募。2018年2月、映画制作担当として着任しました。これまでの仕事では「効率」が求められましたが、自分自身で「ものづくりの現場に入りたい」という思いが強くなり、新たな挑戦を決意したと語ります。
長島町に惹かれた理由
第一印象は「この島なら暮らせそうだ」と感じたそうです。長島町の魅力は景観や食べ物だけではなく、人々の生き様にもあります。漁業や農業など、リスクを伴う仕事に真剣に向き合う島民の姿からは「生きる覚悟」を感じるとのこと。子どもたちは遊びを自分たちで作り、大人たちは豪快で快活。都会的な要素もありつつ、自然と共存する豊かな生活が営まれています。
映画の舞台とおすすめスポット
小楠さんは映画のロケ地を訪れることを勧めます。特に主人公・豊和が暮らす日野家周辺は徹底的にロケハンを重ね、物語の中の「家族の生活」に説得力を持たせました。町内では、新鮮な魚介やB級グルメも楽しめます。厚切りカツ丼の「食堂いしもと」や、廃車のバスを店舗にした「万来」のバスラーメンは地元ならではの味です。
映画を通して伝えたかったこと
小楠さんは、長島町を単なる「ご当地映画の舞台」にしたくなかったといいます。「子育てや家族、人生で悩む人に届く映画にしたい」という思いから、長島の存在を知ることで観客が勇気を得られるような作品を目指しました。また、地元の人には「自分たちの町の豊かさ」を再認識してほしいとも語ります。小楠さんによれば、地方創生とは外部から何かをしてもらうのではなく、住民自身が主体的に作っていくものだと考えているそうです。
映画製作の苦労と学び
初めての映画製作では、資金繰りからPR、台本チェック、撮影場所交渉まであらゆる業務を担当。「ほぼ何でも屋」状態だったと振り返ります。長島町では映画文化が身近ではないため、住民との理解を少しずつ得ることも大変でした。それでも、地元住民や映画実行委員会の協力で前進。小楠さんは「いいものを追い求めるときに近道はない」と痛感し、映画作りを通じて覚悟と受容の大切さを学んだと語ります。
キャストとリアリティへのこだわり
主人公・豊和役には町内オーディションで松原豊和君を選出。小楠さんは「人を惹きつける魅力がある」と評価します。映画には約300名のエキストラが参加し、寒い12月の撮影でも真夏の設定に合わせて協力しました。役者たちは現地に滞在し、漁や農作業を体験しながらリアルな演技を追求。特に貫地谷しほりさんは敢えて町民と距離を置き、役作りに集中したといいます。
小楠さんの印象に残るシーン
映画の象徴ともいえる夕陽のシーン。撮影期間中は悪天候が続いたものの、奇跡的に重要な夕陽を撮影できました。「物語と切り離せないシーンで、特別な思い入れがある」と語ります。
誰に観てほしいか
テーマは「子育て」ですが、性別や年齢を問わず、人生に迷いや悩みを抱える人に観てほしい作品です。観る人によって受け取り方は変わるものの、「生きることへの応援歌」として、多くの人に気づきや勇気を与えられる映画であると小楠さんは考えています。
長島町に込めた思い
小楠さんは、映画を通して町の豊かさと住民の覚悟、共生の力を全国に伝えたいと語ります。単なる町おこし映画ではなく、未来まで語り継がれる骨太の作品を目指し、長島町の人々とともに作り上げた「夕陽のあと」。その熱意は観客の心に深く響くことでしょう。