「富山といえば?」と聞かれて、すぐに答えが出てくる人は意外に少ないかもしれません。海の幸?薬売り?立山連峰?──なんとなく知ってはいるけれど、強烈な観光地イメージがないのが正直なところでしょう。

しかし、実際に訪れてみると印象は一変します。華やかさよりも、じわじわ心に沁みてくるような居心地の良さ。人の温かさや水と緑に囲まれた街並みは、訪れる人の心をやさしく包み込んでくれます。今回は、編集部スタッフが初めて富山市を歩いた体験をもとに、その魅力をレポートします。


水と緑に抱かれる街並み

北陸新幹線で東京からわずか2時間あまり。降り立った富山駅は新しく清潔感のある佇まいです。駅前は意外にも人通りが少なく、初めは少し寂しさを感じましたが、街を歩くうちに印象は変わっていきました。

市内中心を流れる松川は、かつて富山城の外濠だった名残り。川沿いには遊歩道が整備され、春はソメイヨシノが桜のトンネルをつくります。四季折々に変わる景色の中を「松川遊覧船」で進むと、穏やかな流れと豊かな緑に癒され、まるで街そのものに抱かれているような感覚に。船長の柔らかな語り口や、川辺に佇むアオサギとの出会いも、旅の記憶を温めてくれます。


富山城と歴史の薫り

富山市のシンボル・富山城は、市民の憩いの場でもあります。小ぶりながら天守閣に登れば、市街と立山連峰を一望できる絶好のスポット。城内の郷土博物館では戦国から近代に至るまでの富山の歴史を紹介しており、学芸員の軽妙な解説に思わず引き込まれます。

また、城下町の面影を残す商店街を歩けば、昭和の香り漂う建物や老舗の店が迎えてくれます。派手ではないけれど、どこか懐かしく心が和む風景が広がっていました。


“薬都とやま”を体感する

江戸時代から「薬売りの町」として知られる富山。その文化を今に伝えるのが池田屋安兵衛商店です。看板薬「反魂丹」をはじめ、かわいらしいパッケージの薬はお土産にも人気。店内では丸薬づくりの体験や昔の道具の展示も楽しめ、富山の薬文化に触れることができます。

さらに、富山市で唯一麦芽水あめを作り続ける島川あめ店も見逃せません。創業350年以上、今も手作業で仕上げる水あめはまろやかで優しい甘さ。薬の丸薬づくりにも欠かせなかったため、今日まで伝えられてきたのだとか。


富山ならではの味覚

グルメの街・富山でぜひ味わいたいのが細工かまぼこ。祝い事に欠かせない華やかな細工ものから、昆布で巻かれたユニークなかまぼこまで、見ても食べても楽しい逸品です。市内の「梅かまU-mei館」では工場見学も可能。高たんぱくでヘルシーな食品として再評価されています。

また、富山銘菓「月世界」は、卵と和三盆糖を合わせて乾燥させた軽やかな口どけが特徴。昭和天皇も絶賛したという逸話を持つ、歴史ある和菓子です。お茶はもちろんコーヒーとも好相性で、お土産にもぴったり。


街を歩いて感じたこと

今回の旅では富山市中心部をほぼ徒歩で巡りました。コンパクトシティを目指す富山は、路面電車や自転車シェアリングも整備され、観光客にやさしい街づくりが進んでいます。一方で、昭和の商店街や歴史的建造物など昔ながらの風景も残され、懐の深さを感じました。

そして何より印象的だったのは人々の姿。富山の人は観光客に「お金を落としてほしい」というよりも、「この街の良さを知ってほしい」という素朴な思いで接してくれるのです。真面目で控えめ、けれど富山への愛情にあふれている――そんな人柄が、街全体の雰囲気を温かくしています。


富山に行きたくなる瞬間

都会の喧騒に疲れたとき、人混みに押しつぶされそうなとき、心がささくれだったとき。そんなときこそ、富山を訪れてみてください。

派手な観光名所はないかもしれません。しかし、川のせせらぎ、山並みの景観、老舗の味、そして人々の笑顔…。じんわりと心を癒やしてくれる時間がここにあります。

東京から新幹線で2時間ちょっと。次の休日は「水の都・富山」で、静かに、ゆっくりと、自分を取り戻す旅をしてみませんか?