江戸から日光東照宮へと続く道のりに点在した宿場町。そのひとつが埼玉県北東部にある「幸手(さって)」です。華やかな観光施設はないけれど、ここには400年前から変わらない道幅の街道や、静かに時を刻む老舗、そして人々の温かさが息づいています。
今回はバスツアーで訪れた「幸手を感じる旅」を通して、この街ならではの魅力を紹介します。
江戸と日光をつなぐ要衝 ― 幸手宿の成り立ち
幸手は、かつて利根川水系の舟運や鎌倉街道の往来で栄えた交通の要所でした。江戸時代に日光街道が整備されると、将軍家の日光社参や大名行列も通る宿場町に。現在も約1kmにわたり、当時と同じ道幅の街道が残され、歩くだけで江戸の空気を感じることができます。
街歩きで出会う“歴史の証人たち”
ツアーではNPO法人「日光街道幸手を感じる会」のボランティアガイドが案内。街道沿いには見どころが点在しています。
老舗旅館「あさよろず」
1819年創業。伊藤博文や板垣退助らも宿泊した記録が残る格式ある宿。今もその歴史がロビーの宿札に刻まれています。老舗パン屋「東城屋」
90年続く町のパン屋。流行に流されず、誠実に焼き続ける姿勢が、地元の人々に愛されてきました。明治天皇行在所跡
1881年と1896年に明治天皇が宿泊された旧中村家。立ち止まれば、街道の重みを実感できます。永文商店の横丁鉄道
昔ながらの酒屋で今も現役のトロッコが店内を走る、遊び心あふれる光景。岸本家住宅主屋
国登録有形文化財。かつて醤油醸造で名を馳せ、パリ万博で銅賞を受賞した歴史を持つ屋敷は、現在カフェとして開放されています。
歩けば歩くほど、幸手がただの通過点ではなく「歴史を紡ぐ街」であることがわかります。
将軍も立ち寄った寺 ― 聖福寺
幸手の名刹「聖福寺」は600年の歴史を持ち、徳川八代将軍・吉宗が日光参拝の途上に立ち寄ったと伝わる寺。境内には左甚五郎作と伝わる彫刻や、運慶作とされる阿弥陀如来像も。
今井ご住職はこう語ります。
「幸手は観光整備が十分ではありません。でも400年前の道幅がそのまま残る街を歩けば、自然と歴史が感じられる。お金をかけなくても、この街の良さは伝わります。」
その言葉どおり、飾り立てることなく、街そのものが“生きた博物館”のように旅人を迎えてくれます。
将軍が食した「吉宗弁当」を味わう
昼食に供されたのは、吉宗が幸手で食べた料理を再現した「吉宗弁当」。焼き豆腐やひじきの煮物、玄米に砂糖をかけたごはんなど、現代人には質素に映るかもしれませんが、素材の味を生かした品々は素朴で滋味深い味わいでした。
かつての将軍が口にした料理を、同じ土地で味わう――。それだけで江戸の旅人気分を味わえます。
人の温もりこそ最大の魅力
幸手には派手な観光施設やお土産スイーツはありません。しかし、そこには地元の人々の「街を好きでいてほしい」という思いがあふれています。
ガイドの丁寧な説明、揚げたてドーナツのお土産、笑顔で迎えてくれる商店主――。取材を終えたとき、「この街、とても住みやすそうだな」と心から感じました。
アクセス
東武日光線「幸手駅」下車
浅草から急行で約60分、北千住から約45分。
まとめ
幸手は、豪華絢爛ではなく“素朴な豊かさ”で旅人を迎える街。江戸の宿場町の空気をそのままに残し、今を生きる人々が誇りを持って守り続けています。
次の週末は、ぜひ日光街道を歩き、幸手の空気を感じてみてはいかがでしょうか。