群馬県南西部、長野との県境に位置する上野村(うえのむら)。人口わずか1,100人足らず、面積の約95%が森林という自然豊かな村です。観光地として大々的に知られているわけではありませんが、訪れた人の心を不思議と掴んで離さない魅力に満ちています。今回は体験した、上野村ならではの食・自然・人の温もりをお届けします。
コンビニがない村の“拠点” 道の駅 上野
上野村にはコンビニが一軒もなく、観光客も地元の人も集う拠点が「道の駅 上野」です。山里の雰囲気漂う佇まいで、川沿いのテラスからは四季折々の景色が楽しめます。訪れたのは紅葉の季節。赤や黄に色づいた山々が、まるで里山の絵巻物のように広がっていました。
ここでぜひ味わいたいのが、村の名物「猪豚(いのぶた)」。猪のワイルドな赤身と豚の甘い脂が絶妙に融合した希少な肉で、全国でも飼育地は数か所しかありません。十石味噌を使った猪豚鍋は、濃厚なのに後味さっぱり。食後には「また食べたい」と思わせる、滋味あふれる味でした。
森と一体になる体験 ― クアオルト健康ウォーキング&森林セラピー
村の95%を占める森をどう楽しむか。上野村が力を入れているのが「クアオルト健康ウォーキング」と「森林セラピー」です。
クアオルトとはドイツ発祥の運動療法で、無理をせず心拍数を保ちながら森を歩くことで、体力づくりだけでなく快眠やストレス解消の効果が期待できます。実際に歩いてみると「頑張らない」ことがルール。心地よい汗をかきながら、集落を一望するビューポイントに立つと、スイスの山岳地帯を思わせる風景が広がります。
さらに「森林セラピー」では、神流川源流域の森を散策。ガイドの案内で寝転がり、木漏れ日を浴びながら腹式呼吸を続けると、鳥の声や風の匂いが鮮明に感じられます。都会では味わえない、五感が研ぎ澄まされる時間でした。
絶景スポット!スカイブリッジ
上野村を代表する観光名所といえば「スカイブリッジ」。長さ225m、高さ90mの歩行者専用吊り橋で、まさに天空の回廊です。眼下に広がる森を見下ろしながら歩く体験はスリル満点。料金はわずか100円、しかも30分ごとにシャボン玉が舞う演出まで。カップルや家族連れに人気なのも納得です。
心に残る“おもてなし” 民宿 不二野家
今回の旅のハイライトが、猟師のご主人が営む「不二野家」でした。夕食には鮎の塩焼きや赤いも、そして熊や鹿の鉄板焼きが登場。熊肉の脂の甘み、鹿肉のヘルシーな赤身はどちらも絶品。さらに上野村産小麦のすいとんはお代わり自由で、思わず3杯も平らげてしまいました。
宴席に現れたのは一升瓶を抱えたご主人。豪快で人懐っこい笑顔に、「これぞ上野村」と地元の人が口を揃える理由が伝わります。翌朝の手作り朝食も心温まる味で、都会のホテルにはない“帰ってきたくなる宿”でした。
村の恵みを持ち帰る楽しみ
道の駅で購入した猪豚カレーやしいたけ、十石味噌まんじゅうなどは、自宅に帰ってからも上野村の余韻を楽しませてくれました。特に猪豚カレーは肉がゴロゴロ入り、懐かしい味わい。しいたけのぷりぷり感や、甘じょっぱい十石味噌まんじゅうはリピート必至のお土産です。
まとめ ― 上野村が教えてくれたもの
上野村を歩いて感じたのは、目には見えない「森の豊かさ」でした。木々が放つフィトンチッドの香りに包まれると、不思議と心が落ち着きます。便利さや派手さはないけれど、素朴な食べ物と人の温かさが「また来たい」と思わせる。
首都圏から車で日帰りも可能ですが、できれば一泊して夜と朝の空気を味わってみてください。そこには、都会では得られない“心の栄養”が待っています。