「ニュージーランド? 北欧?」――そう思わず口にしてしまうほどの絶景が群馬にあります。その名は「野反湖(のぞりこ)」。標高1,513m、2,000m級の山々に囲まれたその姿は、まさに“天空の湖”です。
そして、この湖へと向かう途中に出会うのが、なんとも衝撃的な名前を持つ「殺人の滝」。静かな山里に潜むその滝は、民話にまつわる由来を秘め、訪れる人に不思議な緊張感を与えます。今回は、この2つの対照的なスポットをめぐる旅をご紹介します。
天空の湖「野反湖」 ― 季節ごとに変わる花の楽園
群馬県吾妻郡中之条町にある野反湖は、群馬・長野・新潟の県境に広がるダム湖です。もとは湿原地帯でしたが、戦後の水力発電開発によって現在の姿となりました。水は新潟側へと流れ、日本海に注ぎます。
湖の周囲は遊歩道が整備され、「遊歩百選」にも選ばれるほど。1周すれば四季折々の景観を楽しめます。特に魅力的なのは、春から秋にかけて咲く高山植物。レンゲツツジ、ノゾリキスゲ、コマクサ、シラネアオイ、エゾリンドウなど約300種類が、湖畔を鮮やかに彩ります。
7月中旬のノゾリキスゲは一面に黄色の絨毯を広げ、秋の紅葉は絵画のような美しさ。訪れるたびに表情を変える野反湖は、多くの旅人を魅了し続けています。
湖畔ではキャンプや釣りを楽しめますが、水質保護のため遊泳は禁止。夏でも涼しく、風の音だけが響く静寂の時間は、まさに非日常の贅沢です。
怪しげな名の「殺人の滝」 ― 世立八滝に隠された民話
一方で、野反湖への道中に現れるのが「殺人の滝」。国道405号線、六合(くに)村付近に立つ案内板に誰もが目を奪われるでしょう。
駐車場から約900m。人影のない山道を歩き、霧が立ち込める林を抜け、急な階段を下っていくと、落差約20mの滝が姿を現します。滝は水流が岩にぶつかり跳ね返る「ヒョングリ」の形態をもち、迫力満点。
その名の由来は、村に伝わる民話にあります。旅の行者が村人に金品目当てで滝に突き落とされた――そんな伝承から「殺人の滝」と呼ばれるようになったとか。ただし読み方は「さつじん」ではなく「さつうぜん」。その理由は今も不明です。
整備は進んだものの、足元は悪く急な坂道が続くため、訪れる際はトレッキングシューズが必須。静けさと不気味な伝説に包まれた空間は、ちょっとした探検気分を味わえるでしょう。
旅の締めくくりは地元グルメ
秘境めぐりの後は、六合村のそば処「野のや」へ。透明感のある二八そばはのど越し抜群。特に舞茸の天ぷらは、店主自らが栽培するもので、香り・食感ともに一級品です。地元野菜の天ぷら盛りもおすすめで、旬の旨みを堪能できます。
天空と伝説、二つの顔を持つ群馬の山旅
雄大で穏やかな野反湖、そして不気味な名を背負った殺人の滝。対照的な二つの景色は、群馬の奥深い自然と歴史を体感させてくれます。
「絶景と怪談」――まるで物語のような組み合わせですが、どちらもここにしかない唯一無二の体験。まだ訪れたことのない方は、この不思議な旅に出かけてみてはいかがでしょうか。