「まるでニュージーランドや北欧のよう」──初めて野反湖(のぞりこ)を目にした人は、きっとそう思うはずです。群馬県中之条町にあるこの湖は、標高1,513mの山上に広がり、2,000m級の峰々に囲まれた静かな場所。人工物の気配がほとんどなく、ただ湖と空と山が織りなす光景は「天空の湖」と呼ぶにふさわしい別天地です。
湖の成り立ちと自然
もともとは湿原に小さな池が点在していた場所でしたが、戦後に水力発電のためダム化され、現在の姿になりました。湖の水は新潟県側、日本海へと流れていきます。湖畔をぐるりと歩ける遊歩道は「遊歩百選」にも選ばれており、キャンプや釣りも可能。ただし水質保全のため遊泳は禁止です。
富士見峠から望む湖は、青く澄みきった水面が山々の緑や秋の紅葉を映し出し、絵画のような美しさ。風の音だけが響く静寂に包まれ、訪れる人は時間を独り占めしているような贅沢を味わえます。
野反湖を彩る花の楽園
この湖最大の魅力は、春から秋にかけて咲き誇る花々でしょう。レンゲツツジ、シラネアオイ、エゾリンドウ、そして夏の主役ノゾリキスゲ──その数およそ300種。湖畔一面に黄色の絨毯を敷いたように咲くノゾリキスゲは例年7月中旬が見ごろで、まさに天上のお花畑です。
友人が「何度訪れても飽きることがない」と語る理由がわかります。訪れる季節によって湖はまったく異なる表情を見せ、旅人を飽きさせないのです。
再訪のたびに新しい感動を
筆者が初めて訪れたのは11月。紅葉は終わっていましたが、澄んだ空と湖の青さのコントラストが印象的でした。人影はほとんどなく、まるで湖と自分だけの世界に迷い込んだような感覚。
その後、2018年の夏には念願のノゾリキスゲを鑑賞。霧に包まれた湖畔を歩くうちに視界が晴れ、黄金色の花々が一斉に輝き出した瞬間は、息をのむ美しさでした。さらに2019年秋には再々訪。紅葉前の静かな湖畔を歩き、白樺林を抜けながら心洗われる時間を過ごしました。まさに「何度でも訪れたい」場所です。
帰路に立ち寄りたい名店「野のや」
野反湖を訪れた後にぜひ立ち寄ってほしいのが、六合(くに)地区にある蕎麦の名店「野のや」。自家栽培の舞茸を使った天ぷらは格別で、黒舞茸と白舞茸の天ぷらはジューシーで香り高く、これまで食べた舞茸天の中で一等賞と言える味わいです。
そばはやや細めの二八。透明感があり、のどごしも上品。950円の「まい天もり」は舞茸の旨みとそばの繊細さを同時に楽しめる一品です。さらに地元野菜を使った天盛りも人気。さつま芋や茄子、幅広インゲンなど、どれも新鮮で濃い味わい。行列必至なので早めの訪問がおすすめです。
まとめ
群馬・長野・新潟の県境に位置する野反湖は、四季折々の花と澄んだ空気に包まれた天空の楽園。静寂と絶景に身を委ねれば、日常の喧騒を忘れさせてくれます。
「多くの人に知られて混雑してほしくない」と友人は笑いますが、この感動はやはり多くの人に体験してほしい。花の季節に、紅葉に、雪解けに──何度訪れても新しい感動が待つ天空の湖。群馬にこんな絶景があることを、ぜひ知っていただきたいと思います。