山形県の南部、置賜(おきたま)地方にある米沢市。人口およそ8万人のこの街は、戦国最強の武将・上杉謙信を祀る上杉神社の門前町として知られ、豪雪地帯としての自然と、米沢牛に代表される美食の街としても名を馳せています。全国的には「牛肉の街」というイメージが強いかもしれませんが、実際に訪れてみると、歴史と文化、そして人の魅力にあふれる場所でした。


上杉家ゆかりの城下町を歩く

米沢観光の中心はやはり上杉神社。米沢城本丸跡に建てられた神社には、謙信公をはじめ、直江兼続や上杉鷹山公の像が並びます。境内は質実剛健な雰囲気で、開運招福や学業成就のご利益を求めて多くの参拝客が訪れます。

すぐそばの松岬神社には財政再建の名君・上杉鷹山公を祀り、さらに向かいの「伝国の杜」には上杉博物館があり、国宝「上杉本洛中洛外図屏風」など貴重な資料を収蔵。歴代藩主が眠る上杉家廟所では、杉木立の中に静謐な空気が流れ、歴史の重みを肌で感じられます。

城下町ならではの風情を今に残すのが武者道。直江兼続が整備したとされる細道は、当時と同じ幅で残されており、歩けば往時の侍の息づかいを想像できます。


大自然と温泉が彩る旅

米沢は自然の恵みにもあふれています。市郊外の天元台高原は、磐梯朝日国立公園の一部で、日本百名山・西吾妻山への登山口。ロープウェイとリフトを乗り継ぐと、四季折々のダイナミックな風景に出会えます。

そして忘れてならないのが米沢八湯。中でも小野川温泉は小野小町ゆかりの名湯で、夏には蛍が舞い、温泉街を幻想的に照らします。もうひとつの名湯白布温泉は700年の歴史を誇り、「奥州三高湯」のひとつに数えられる山あいの秘湯。雪見風呂に身を委ねれば、日常を忘れるひとときを過ごせます。


グルメの宝庫・米沢牛と郷土料理

米沢に来たら外せないのがやはり米沢牛。老舗「登起波」では、特製割下で煮込む牛鍋スタイルのすき焼きが名物。脂の甘さと赤身の旨みが調和し、口に入れるととろける美味しさです。観光客には、手軽に楽しめる米沢牛コロッケ米沢牛串焼きも人気。学生が小遣いをはたいて1,200円の串を頬張るというエピソードにも頷けます。

麺文化も豊かで、あっさり醤油味と手もみ細麺が特徴の米沢ラーメンや、山の幸をふんだんに使ったきのこそばも格別。さらに、米沢駅名物の駅弁牛肉どまん中、その元祖である「牛肉弁当」も旅のお供に最適です。

郷土料理をじっくり味わいたいなら上杉伯爵邸へ。旧上杉家邸宅を利用した食事処で、日本庭園を眺めながら「雪の膳」を堪能できます。うこぎご飯や鯉の甘煮、しそ巻きなど、地元ならではの伝統料理に触れるひとときは旅のハイライトになるでしょう。


受け継がれる伝統と人の温かさ

米沢には食や自然だけでなく、地元の手仕事も息づいています。笹野地区に伝わる郷土玩具笹野一刀彫・お鷹ぽっぽは1200年の歴史を持ち、今も職人たちが一刀入魂で彫り続けています。木肌の白さと優雅な羽根が特徴で、商売繁盛のお守りとして親しまれています。

そして何より心に残るのは、人々の人柄です。最初は控えめながら、誠実で温かく接してくれる米沢の人たち。その背景には「なせば成る」で知られる上杉鷹山公の精神や、質素倹約を旨とした上杉家の教えが脈々と息づいています。


まとめ

派手な観光地ではないかもしれません。しかし米沢には、歴史と文化が根づいた町並み、美味しい食、心を癒す温泉、そして人の温かさがあります。

雪深い盆地に広がる青い空と山々の景色の中で、「おしょうしな(ありがとう)」という優しい言葉が響く街。米沢は、訪れる人の心をじんわりと満たしてくれる城下町でした。