宮城県の中部、太平洋に面する東松島市。日本三景・松島の隣にあり、「奥松島」と呼ばれる地域です。人口約4万人のこの街は、全国的には大きな観光地のイメージが薄いかもしれません。しかし東松島は2017~2019年に「住みよさランキング」で全国1位を獲得し、2018年には「SDGs未来都市」にも選定された実力派の街。実際に訪れると、豊かな自然と食、そして人の温かさに触れることができます。
自然が織りなす絶景
東松島の代表的な景勝地といえば、宮戸島にある大高森(おおたかもり)。標高わずか105.8mの小さな山ですが、頂上からは松島湾の島々を一望でき、四大観のひとつ「壮観」と称される絶景に出会えます。夕暮れ時の光景は特に美しく、訪れる人を魅了します。
さらに宮戸島の突端に広がる嵯峨渓も見逃せません。日本三大渓のひとつに数えられ、太平洋の荒波が削り出した男性的な景観が特徴。漁師たちが運行する小型遊覧船で入り江を縫うように進み、青の洞窟に近づく体験はスリル満点です。
震災の記憶を未来へ
2011年の東日本大震災で、市の36%が浸水し甚大な被害を受けた東松島。その記憶を伝える拠点が**震災復興伝承館(旧野蒜駅)**です。折れ曲がった線路や津波到達ラインが当時の被害を生々しく伝え、「忘れない」という思いを強く感じます。
海と大地の恵み
東松島は一次産業が盛んな街。特に牡蠣と海苔は全国屈指です。
牡蠣は日本の80%の「種牡蠣」を供給。阿部晃也さんら地元漁師は、内湾で優しく育て、荒海で鍛える独自の方法で、殻は小ぶりでも身が大きく甘い牡蠣を育てています。地元で人気の食べ方は意外にも「天ぷら」。サクッとした衣と濃厚な身が絶妙なのだそうです。
一方、海苔漁師の相澤太さんは、皇室献上の栄誉を持つ実力者。余計な味付けをせず、自然の風味を生かした「金のばら干し」は、フライパンで炙ると磯の香りと食感が際立ちます。また、地元の料理人と共同開発した「のりうどん」は、もちもちとした独特の食感がクセになる逸品です。
農業の分野でも挑戦が続きます。震災後に始まった東北コットンプロジェクトでは、塩害に強い綿花の栽培が広がり、赤坂農園では収穫体験も行われています。さらに、スマート農業に挑むイグナルファームや、AIやIoTを活用して農業と福祉を結びつける幸滿つる郷など、新しい農業の形が芽吹いています。
青い空を駆ける誇り
そして東松島といえば忘れてはいけないのが、ブルーインパルス。航空自衛隊松島基地を拠点に活動し、街中にはブルーインパルス通りやグッズショップ、青いポストまであります。日常的に大空を舞うその姿は、市民にとって誇りであり希望の象徴です。
まとめ
東松島は、「海と空と風の音しかない」と地元の人が語るほど静かな街です。しかし実際に訪れると、自然の美しさ、美味しい食材、そして前を向いて生きる人々の姿に心を打たれます。
震災を乗り越え、「なにもない」と言いながらも確かにここにはある。
それは、青い海と空、豊かな恵み、そして人の強さと温かさ。
「住みよさNo.1」と称される理由が、少しわかった気がします。