2024年7月、新潟県の「佐渡島の金山」がユネスコ世界文化遺産に登録されました。これで日本国内の世界遺産は自然・文化を合わせ26件目。かつて徳川幕府の財政を支えた金山跡が、歴史的・文化的価値を世界からも認められた瞬間です。

そんな佐渡ですが、「名前は知っているけど行ったことがない」という人も多いのではないでしょうか。実際に訪れてみると、そこには“便利さ”とは別の次元にある「本当の豊かさ」が息づいていました。


島とは思えないスケール感

佐渡は日本海側最大の島。周囲は約282km、面積は東京23区の1.4倍にもなります。中央には米どころ国中平野、北に大佐渡山地、南に小佐渡山地が広がり、1,000m級の山々が連なります。

バスで走れば一面に広がる田んぼの風景。その向こうにどっしりと山並みがそびえる様子は「ここが島なの?」と目を疑うほど。気候もエリアによって異なり、南ではヤシの実が流れ着く一方で、北ではアザラシが漂着した記録もあるというから驚きです。


朱鷺(トキ)が舞う島

佐渡のシンボルといえば朱鷺(トキ)。一時は絶滅寸前まで減少しましたが、現在では約370羽が野生で確認されています。島内を歩けば翼を広げて飛ぶ姿に出会えることも珍しくありません。かつて教科書の中でしか見られなかった鳥が、今や日常の景色に溶け込んでいるのです。


船旅も楽しみのひとつ

本州と佐渡を結ぶのは佐渡汽船。新潟-両津間のカーフェリーは約2時間半、ジェットフォイルなら約65分で渡航できます。のんびり海を眺めながら船尾に残る白い航跡を追うのも旅情たっぷり。時間を優先するならジェットフォイル、と使い分けができるのも魅力です。


食の宝庫・佐渡グルメ

佐渡は食材の宝庫でもあります。米は魚沼産に次ぐブランド力を誇り、日本酒も島内に5つの蔵元が。秋にはおけさ柿が旬を迎え、焼酎や炭酸ガスで渋抜きした果実は上品な甘さが特徴です。

さらに地元のお母さんたちが切り盛りする「大崎そばの会」では、地元産そば粉100%の手打ちそばに、煮しめや天ぷらなど素朴な郷土料理が並びます。飾り気のない味わいに「また食べたい」と思わせる力があるのです。


歴史と文化にふれる観光地

佐渡の観光といえば、やはり 佐渡金山。江戸時代から近代まで稼働した坑道を歩けば、当時の採掘現場を人形で再現した展示がリアルに迫ってきます。世界文化遺産に選ばれた理由を肌で実感できる場所です。

また、北前船で栄えた宿根木の街並みや、断崖絶壁が続く尖閣湾の遊覧船、紅葉に映える妙宣寺の五重塔など、見どころは尽きません。さらに、能の文化が庶民にまで根付いた背景には、佐渡に流された世阿弥や金山奉行の影響があり、今も茅葺きの能舞台で上演が続けられています。


島の豊かさとは

「スーパーやデパートがなくて不便でしょう?」と訪問客に聞かれることも多いそうですが、地元の人は笑って答えます。「スーパーが必要な都会のほうが、よほど不便なのでは」と。

確かに、佐渡には最新の娯楽や巨大商業施設はありません。しかし、広大な田んぼ、舞う朱鷺、豊かな食材、伝統芸能、そして人の温かさがある。

それこそが、佐渡が持つ「本当の豊かさ」なのだと実感しました。


まとめ

佐渡はただの観光地ではなく、自然と人の営みが調和した“暮らしそのもの”が観光資源です。世界文化遺産に登録されたことで、ますます注目を集めるでしょう。しかし訪れるときはぜひ、派手な観光だけでなく、素朴な日常の豊かさに目を向けてみてください。

きっとあなたも、佐渡に恋をするはずです。