愛知・名古屋の横山美術館にて、企画展「超絶技巧の七宝展」が2025年9月19日(金)から12月21日(日)まで開催される。鮮やかな発色と繊細な装飾で知られる七宝は、金属などの素地に釉薬を焼き付けることで生まれる工芸品。その起源は紀元前のエジプトにまでさかのぼり、日本へは古墳時代末期に伝わったとされている。

江戸時代後期には、尾張藩士の梶常吉(かじ つねきち)が「尾張七宝」を創出し、近代七宝の礎を築いた。明治以降は重要な輸出工芸として世界に広まり、日本の七宝技術は大きな飛躍を遂げることになる。従来の七宝は「象嵌」と呼ばれる技法で、くぼみに釉薬を流し込むのが一般的であった。しかし尾張七宝では、銀や金の細線で文様を縁取り、その中に釉薬を施す「有線七宝」や、線を用いずグラデーションで表現する「無線七宝」など、革新的な技法が発展した。これらは日本独自の美意識と高度な職人技によって磨かれ、世界を魅了していった。

本展では、そうした近代七宝の粋を集めた約250点の作品を展示する。たとえば、緻密な花と鳥を描いた《七宝山桜雀図花瓶》、富士山をモチーフにした《無線七宝富士図花瓶》、磁器と七宝を融合させた《染付磁胎七宝秋草蝶図花瓶》、さらには金魚を鮮やかに映し出した《銀胎無線七宝藤金魚図花瓶》など、いずれも驚異的な技巧が施された名品ばかりだ。

加えて、明治時代に設けられた「帝室技芸員」の作品も展示される。帝室技芸員とは、皇室が優れた美術工芸家を顕彰・保護するために設けた制度で、七宝分野では「東のナミカワ」と称された濤川惣助(なみかわ そうすけ)や、「西のナミカワ」と呼ばれた並河靖之(なみかわ やすゆき)が任命されている。彼らの作品は、緻密な金属線と豊かな色彩が織りなす美の極致として、今なお高い評価を受けている。

展覧会では、尾張七宝を中心に、京都の並河靖之による西の京七宝、横浜で発展した東の七宝など、地域ごとに異なる技術や表現の広がりを比較できる構成となっている。七宝がたどった歴史と進化、そして当時の職人たちが追求した美の世界を体感できる貴重な機会だ。

鮮やかな色彩と精緻な技が織りなす近代七宝の魅力を堪能できる本展は、美術愛好家はもちろん、日本の伝統工芸や歴史に関心を持つ人にもおすすめ。冬に向かう名古屋で、幻想的なきらめきを放つ作品群に触れてみてはいかがだろうか。

展覧会概要
企画展「超絶技巧の七宝展」
会期:2025年9月19日(金)~12月21日(日)
会場:横山美術館
住所:愛知県名古屋市東区葵1-1-21
開館時間:10:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日:月曜日(祝・休日の場合は開館し、翌平日に休館)
入館料:一般 1,000円(800円)、高校生・大学生・65歳以上 800円(600円)、中学生 600円(400円)、小学生以下 無料
※( )内は20名以上の団体料金
※障がい者手帳の所持者は700円

【問い合わせ先】
横山美術館
TEL:052-931-0006