大阪市立美術館では、特集展示「売茶翁から花月菴―煎茶道はここから始まった!―」が2025年9月20日(土)から10月19日(日)まで開かれる。日本文化の中でも独自の広がりを見せてきた「煎茶道」の原点に焦点をあて、その成立から発展に至る道筋を紹介する内容だ。

煎茶の歴史をさかのぼると、江戸時代初期にまで行き着く。禅宗の一派である黄檗宗の僧侶や、中国大陸から長崎に訪れた人々が伝えた明代の喫茶法を通じて、日本に「茶葉を煎じて飲む」文化がもたらされた。当初は単なる嗜好品としての茶であったが、やがて文人や知識人の間で精神修養の手段として浸透し、茶を通じて心を磨く「道」へと昇華していく。

この潮流を大きく推し進めたのが、黄檗僧から俗人に戻り「売茶翁(ばいさおう)」と称された人物である。彼は京都で茶具を担ぎ、禅の思想とともに煎茶を広めた。伊藤若冲による《売茶翁高遊外像》にもその姿が描かれ、当時の精神的影響力の大きさを物語っている。売茶翁に触発された京都や大坂の文人たちは、煎茶を単なる飲料ではなく、心を養い交流を深める文化として確立させていった。

その後、大坂の田中鶴翁(たなか かくおう)が中心となり、煎茶を「煎茶道」として体系化する道筋を築く。山本梅逸筆《田中鶴翁像》や、初代清水六兵衛による《白泥涼炉/炉台「無膓清玩」》などの作品からは、文人趣味と精神性が融合してゆく様子がうかがえる。大坂はまさに煎茶道が確立する舞台であり、その地ならではの文化的成熟があったことがわかる。

今回の特集展示では、青木木米作《白磁水注「花月菴茶寮置 聾米造」銘》をはじめ、煎茶道具や書画が一堂に会する。茶をめぐる精神文化と美術工芸の融合を堪能できる貴重な機会だ。売茶翁から花月菴に至るまでの歩みをたどりながら、煎茶道がいかにして大阪の地で深化していったのかを体感できるだろう。

展覧会概要
特集展示「売茶翁から花月菴—煎茶道はここから始まった!—」
会期:2025年9月20日(土)~10月19日(日)
会場:大阪市立美術館
住所:大阪府大阪市天王寺区茶臼山町1-82 天王寺公園内
開館時間:9:30〜17:00(入館は16:30まで)
休館日:月曜日(祝日の場合は開館し、翌平日に休館。ただし9月22日(月)は開館)
観覧料:一般 500円(400円)、高校・大学生 200円(160円)、中学生以下 無料
※( )内は20名以上の団体料金
※大阪市内在住の65歳以上、障がい者手帳などの所持者および介護者1名は無料(要証明)
※同時期開催の特別展「NEGORO 根来 – 赤と黒のうるし」の観覧券で、本特集展示および企画展示も観覧可

【問い合わせ先】
大阪市総合コールセンター(なにわコール)
TEL:06-4301-7285(受付時間 8:00~21:00 / 年中無休)