東京・南青山の根津美術館では、2025年11月1日(土)から12月7日(日)まで、特別展「伊勢物語 ― 美術が映す王朝の恋とうた ―」が開催される。平安時代前期を代表する歌人・在原業平(ありわらの なりひら)の和歌を中心に構成された物語集『伊勢物語』をテーマに、絵画や工芸、書など多彩な作品が一堂に公開される。
『伊勢物語』は全125段から成り、恋や旅のエピソードを和歌とともに描き出した物語。後に紫式部の『源氏物語』にも影響を与え、日本文化や美術の発展に大きな役割を果たした。本展はその広がりを「古筆」「絵画」「工芸」といった切り口で紹介し、時代を超えて受け継がれてきた美の系譜をたどる。
まず第1章では、中世以前の貴重な作品を展示。平安時代に書写された現存最古の断簡とされる《伊勢物語切》をはじめ、重要文化財《伊勢物語絵巻》(鎌倉時代・和泉市久保惣記念美術館蔵、会期前半のみ展示)、そして初公開となる《在原業平像》(室町時代・根津美術館蔵)など、物語の成立初期にさかのぼる資料が並ぶ。
第2章では江戸時代における受容を紹介。版本として普及したことにより、物語は幅広い層に親しまれるようになり、絵画表現の発展につながった。重要文化財である岩佐又兵衛《伊勢物語 梓弓図》(文化庁蔵)や、冷泉為恭による《伊勢物語 八橋図》など、華やかな屏風や絵巻が物語世界を彩る。

第3章では「物語絵」と「歌絵」の二つの表現形式に注目。物語の場面を描く「物語絵」と、そこで詠まれた和歌を象徴的に表現する「歌絵」が交錯し、独自の美が形成された。代表的な作品として、《八橋蒔絵硯箱》(江戸時代・サントリー美術館蔵)や、扇面に和歌の情景を描いた《扇面歌意画巻》(根津美術館蔵)などが登場し、文学と美術が融合した豊かな文化の広がりを体感できる。
今回の展覧会は在原業平生誕1200年を記念したものであり、和歌と物語、そしてそれを受け継いだ美術の歴史を一望できる貴重な機会となっている。

【展覧会概要】
在原業平生誕1200年記念 特別展「伊勢物語 ― 美術が映す王朝の恋とうた ―」
会期:2025年11月1日(土)~12月7日(日) ※一部作品は会期中展示替えあり
会場:根津美術館 展示室1・2・5
住所:東京都港区南青山6-5-1
開館時間:10:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日:月曜日(11月3日、11月24日は開館)、11月4日(火)、11月25日(火)
入館料:一般 1,500円(前売 1,300円)、学生 1,200円(前売 1,000円)、中学生以下無料
※オンラインによる日時指定予約制(10月21日より受付開始)
※障害者手帳提示者および同伴者1名は割引料金適用
※当日券は混雑状況により販売しない場合あり
【問い合わせ先】
根津美術館(代表)
TEL:03-3400-2536