京都は市街地だけじゃない

京都と聞けば、多くの人が思い浮かべるのは清水寺や金閣寺、嵐山といった観光名所でしょう。しかし、府全体を見ればそのイメージはほんの一部。京都府は南北に120kmと細長く、気候や風土もさまざまです。今回訪れたのは中部から北部、かつての地名でいえば丹波から丹後のエリア。ここには「森の京都」と「海の京都」と呼ばれる、豊かな自然と人々の営みが息づいていました。

森の京都で出会う人と食

南丹市美山町は、イノシシや鹿の獣害に悩まされてきた地域。その現実に向き合い、地域を守ろうと始められたのがジビエ料理店「厨房ゆるり」です。猪鍋や鹿肉のローストなど、里山の恵みを「日常の選択肢」として食卓に届けたい——そんな思いで若い夫婦が奮闘しています。

また、古民家に泊まれる「美山FUTON & Breakfast」では、日本の原風景そのままの茅葺き家に滞在できます。観光地巡りではなく、囲炉裏を囲んで語らい、川遊びや蛍の舞う夜を楽しむ。そこには「時間を共にする」という旅の新しい価値がありました。

さらに美山の「かやぶきの里」では、住民が協力して景観を守り続けています。葺き替えにかかる高額な費用や労力を惜しまず、往時の姿を未来へつなごうとする姿勢に、この土地の誇りが感じられます。

海の京都が育む味わい

北へ進めば、日本海に面した「海の京都」。舞鶴西港では普段見られないカニのセリを見学しました。出し子と呼ばれる人がカニを掲げ、買い手に魅力を伝える光景は迫力満点です。

宮津の「ととまーと」では、漁師が水揚げしたばかりの魚を味わえます。ブリや京さわらなどをその場で調理し、鮮度抜群のまま提供。「魚は新鮮なうちに食べてほしい」という漁師の矜持が詰まっています。

さらに伊根町では、海にせり出した230軒もの舟屋が現役で使われています。水上コテージのような暮らしの場でありながら宿泊も可能。旬の魚や名物のブリを堪能できるのも、この土地ならではの魅力です。

土地が生む特別な素材

丹波・丹後は農作物も実にユニークです。伊根町の高地でのみ連作できる「薦池大納言」は、大粒で炊くとふっくら膨らみ、ぜんざいにすると驚くほどの存在感を放ちます。京丹波の「和知栗」は手間暇かけて育てられる幻の栗。これを使った「菓歩菓歩」のモンブランは、栗本来の甘さと香りを極限まで引き出した逸品です。

また、京丹後市で無農薬野菜を育てる「自然耕房あおき」には、亡き夫の遺志を継ぎ、地域や顧客の声に支えられながら農業を続ける妻の姿がありました。効率や大量生産ではなく「土を育てる」ことにこだわる生き方は、この地域の精神を象徴しています。

受け継がれる本当の豊かさ

今回の旅で強く感じたのは、丹波・丹後には「効率」や「規模」では測れない価値が根付いているということです。少量でも、手間がかかっても、良いものを守り続ける。その姿勢は、日本がこれから進むべき道を示しているようにも思えました。

観光地としての華やかさよりも、暮らしの中に残る知恵や技、食材を未来へ繋ぐ人々の営みこそ「一歩先の京都」の魅力です。あなたも丹波・丹後を訪れ、本当の豊かさについて考えてみてはいかがでしょうか。