東京・新宿の中村屋サロン美術館では、2025年9月17日(水)から12月7日(日)まで、特別展「歌川広重 二つの『東海道五拾三次』 保永堂版×丸清版」が開催される。江戸から京都を結ぶ東海道の宿場町を描いた連作は、江戸時代後期の旅ブームとともに広く人気を博し、浮世絵師・歌川広重の名を世に知らしめた代表作のひとつだ。

今回の展示では、もっとも有名な初版「保永堂版」と、その16年後に発表された「丸清版」を一堂に公開。いずれも同じ宿場町を題材としているが、出版元や時代背景の違いによって構図や配色、描き込まれる人物像などに変化が見られる。保永堂版の《庄野 白雨》では激しい雨脚の中を急ぐ旅人の姿が印象的だが、丸清版の《庄野》では視点や人物配置が異なり、より穏やかな情景が広がる。また、《箱根 湖水図》と《箱根》では湖面や山並みの描写が大きく異なり、広重が異なる視覚的解釈を試みたことがわかる。

このように、同じ宿場でも絵の印象が大きく変わるのは、出版事情や市場の嗜好、さらには広重自身の画風の変化などが影響していると考えられている。来場者は二つのシリーズを見比べることで、時代の移り変わりや広重の表現の幅広さを感じ取ることができるだろう。

会場となる中村屋サロン美術館は、新宿駅から徒歩数分のアクセスの良い立地にあり、落ち着いた空間でじっくりと作品を鑑賞できる。開館時間は10時30分から18時まで(最終入館は17時40分)で、火曜休館。ただし9月23日(火・祝)は開館し、翌24日(水)が休館日となる。入館料は800円で、高校生以下や障がい者とその同伴者1名は証明書提示で無料となるほか、半券によるリピート割引も用意されている。

江戸時代の旅情と浮世絵の美を、二つの「東海道五拾三次」を通して味わえる本展は、日本美術や歴史に関心のある人はもちろん、旅好きにもおすすめだ。